一般社団法人 持続可能な地域社会総合研究所

コロナ危機下における地域づくりの重要性と出口戦略の提言

 今回のコロナ危機、私たち持続地域総研は、このように考え、行動していきます!

2020年5月1日 持続可能な地域社会総合研究所 所長 藤山 浩

はじめに~オンライン化だけでは不十分、危機対応を地域づくりとして取り組む

 研究所では、コロナ危機に対応し、現在、オンラインによる会議はもちろん、講演や研修、ワークショップも含めたオンライン対応を進めています。5月中旬からは、講演等も含めた多様な対応が可能となります。国の「コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」等も活用いただき、現場での条件整備を進めていただければと願っております。
 ただ、私たちは、今回の危機への対応を単なる技術的なものに留めていてはいけないと考えています。自治体の中には、一時的に地域づくりの取り組みを一時棚上げして、コロナ危機に集中しようとする動きも見られます。私たちは、コロナ危機に対して、むしろ従来から共に取り組んできた地域づくり手法を活用しその体制や取り組みを進化させることが、長期的な視点において持続可能な地域社会実現につながると考えています。
 以下、今回のコロナ危機の基本的な認識と望まれる地域づくりの取り組みそして出口戦略として望まれる政策提言をまとめてみました。

危機の本質は行き過ぎた「大規模・集中・グローバル」

 コロナ危機が深刻化しています。私たちの文明のあり方そのものを問う危機となってきました。ウィルスを爆発的に流行させているのは、「大規模・集中・グローバル」という今の文明の設計原理自体です。その設計原理が地球上を覆い完成した時、世界は一番脆弱となっていたのでした。
 日本の中で、東京は、「大規模・集中・グローバル」の頂点に立っていました。しかし、今や医療崩壊を防ぐため、大規模・集中を自宅待機等で避け、グローバルな人の流れを遮断しています。東京の機能停止が一番甚だしいようです。
 一刻も早いワクチン等の開発を願っていますが、すぐに成功する保証はありません。場合によっては、数年の持久戦も想定され、所得保障の仕組みは不可避となるでしょう。ただ、対症療法だけでは、このトンネルは抜けられないのではないでしょうか。根本的な背景となっている「大規模・集中・グローバル」一辺倒の文明自体の危うさを、そろそろ直視すべきだと思います。東京一極集中を解消し、持続可能な循環型社会へと舵を切る時が来ています。今回のようなウィルス危機だけでなく、例えば国内でも首都直下地震、世界的には地球温暖化といった巨大リスクが待っているからです。
 このままコロナ危機が長期化すると、大都市部を中心に、大量の失業や生活難民が発生します。一方で、循環型社会への転換を図るのであれば、「小規模・分散・ローカル」の設計原理で動く地方の出番となります。経済対策は未来志向で進めるべきです。再生可能なエネルギーや資源の多くが存在する農山漁村を甦らせる国民的な事業が必要だと考えます。

全国一律の自粛政策だけでは、「社会的壊死」が発生

 ただ、今までの局面において、地方は、あまりに東京発の東京基準による「全国・一律・自粛」方針に流され過ぎではないでしょうか。このまま人の移動や交流の停止を全国一斉に展開すると、一種の「社会的壊死」が発生しかねません。地域ごとに異なる状況把握が何よりも必要ですし、対症療法に終始するのではなく、持続可能な未来のあり方を予め導き入れる発想が重要だと考えます。

地方の独自性と潜在力を活かす戦略を

 コロナ危機対応のベースは、実は、多くの市町村において自治体と研究所で一緒に進めさせていただいてきた長期的な地元の創り直し戦略と共通しています。次のような地方の独自性と潜在力を活かす戦略を共に知恵を絞り、進めていきましょう。

① 自治体ごと、地域ごとのデータ分析が出発点
 第一は、徹底したデータ分析です。現状は、県単位の感染者数等に一喜一憂しており、きめの細かい自治体・地域ごとの分析が不足しています。自治体・地域が主体性を持って、各種の検査により感染の広がりを突き止め、現場のエビデンスに基づいた正しい情報と対策を住民全体で共有すべきです。研究所では、地区別人口分析で定住状況をGISマップ等も含めて集約したように、地域ごとのデータ分析を出発点として、地区ごとの現状、課題や成果をわかりやすく共有する取り組みを応援します。

② 地域ごとの危機の現状、弱み、強み等の見取り図を描く
 第二は、地域構造の弱み、強みの包括的な把握です。現在、一種の災害状況に中にあります。したがって、誰が・どこが一番困っているのか、孤立していないか、地域全体で見取り図を描く必要があります。客足が激減している飲食業者やオンライン化に取り残されている高齢者もいるでしょう。研究所では、組織、活動と相互関係を網羅する「地元関係図」という手法を進化させていますが、これを活用して「地元コロナ危機状況図」を描いてはどうでしょう。地域でスクラムを組むためには、まずは状況の「見える化」が必要です。

③ 今こそ、お金を地元でしっかり回していく
 第三は、域内経済循環の強化です。今の状況では、観光等の外需回復はすぐに期待できません。経済対策を行う場合、これまで以上に、外部に流出せず地域内の隅々までお金が行き届くような消費・流通・生産の仕方が求められます。国民一律10万円の「特別定額給付金」にしても、しっかり地域内の農家等の生産者までお金が巡っていく使い方が望まれます。研究所では、従来から進化させてきた消費・流通・生産の3段階で地域内所得の創出額を算定できる「LM3分析」を活用し、地域内に実質的に多くの所得が創出する経済のつなぎ方をわかりやすく提案していこうと考えています。

④ 計画的な田園回帰、定住促進の実施
 第四は、田園回帰の実施です。このままでは、東京をはじめとする大都市で大量の失業が発生します。リモートワークが可能なら、よりリスクが低く再生可能資源に恵まれた地方定住が進むでしょう。もちろん、大量の地方移住を直ちに行えば、感染拡大の引き金となってしまいます。客不足で喘いでいる観光施設や空き校舎、空き家等を活用して待機施設をつくり、計画的に進めていくのです。どのくらいのペースで導入していけばよいかは、前述の地区別人口分析を実施していれば、人口安定化に必要な目標数がわかります。

<政策提言>コロナ危機からの出口戦略:日本版「民間国土保全隊」=グリーンレンジャーの地方配置を

 2015年にフランスで出版され、ベストセラーになった「崩壊学」が説いているように、地球温暖化など文明の随所に兆候が現れている全面的崩壊を防ぐためには、地域ごとにしなやかさのある小規模な自立システムが求められています。つまり、「小規模・分散・ローカル」の設計原理で動く地方の出番なのです。
 このままコロナ危機が長期化すると、大都市部を中心に、大量の失業や生活難民が発生します。一方で、循環型社会への転換を図るのであれば、再生可能なエネルギーや資源の多くが存在する農山漁村を甦らせる田園回帰の戦略が必要です。
 歴史上に良いお手本があります。世界大恐慌期、当時の大統領F・ルーズベルトは、「民間国土保全隊」という組織を、大量の失業青年対策も兼ねて結成させました。1935年には、50万人を超える若者が、全米2,650箇所のキャンプで田園地域における植林や公園整備等の自然資源の保全に取り組んだのです。この資源保全、若者の失業対策・教育訓練、地方の人材活用と経済活性化を組み合わせた事業は、ニューディール政策の中で最も評価の高い取り組みとされています。日本版は、「グリーンレンジャー」と名付けてはどうでしょうか。地方からの循環型社会への先着に向けて、地域住民と共同で、森林や農地、海岸の保全、再生可能エネルギー施設の建設、「小さな拠点」や「地域循環共生圏」の形成、次世代型の交通インフラ整備等に取り組むのです。全国各地でがんばっている地域おこし協力隊との連動も有望だと思います。

対症療法ではなく、未来への出口戦略を
 今こそ、対症療法や全国一律の自粛ではなく、地元の多様性と底力を生かす自発を始める時です。行き過ぎた「大規模・集中・グローバル」が招いた今回の危機、「小規模・分散・ローカル」の地元から循環型社会の未来へ先着したいものです。

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